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liner notes

“眠る”という行為は、ただ休息をとるためのものではない。起きているうちに五感から吸収したさまざまな刺激から心を解放して、ニュートラルな状態に戻すための大切な作業なのだ。だからよく、眠るときに見る”夢”は深層心理を映像化したものだというけれど、それはすなわち日常生活で刺激の足りない部分を、夢という疑似体験で補っているというわけだ。

「もともと、このバンドをやる前から、僕一人で曲を作ってて。ライヴをするわけでもなく、ただ溜めていって。自分で眠れるような曲……そういう感じのものを作ってましたね。とにかく自分のために」そう語るのは、これから紹介するバンドのヴォーカル/ギター、成山剛。実家のある根室を離れ、札幌で一人暮らしを始めてから、不眠症気味になってしまった という。そんな時、曲を作ることで平静を取り戻し、次第に眠れるようになっていったという。彼は、そんな自分の音楽を奏でるバンドに “Sleepy.ab (スリーピー)” という名前を付けた。

札幌の音楽専門学校に通っていた成山が、卒業後にギターの山内憲介、ベースの田中秀幸らとともに1998年に結成した “sleepy head” がその原型だ。
「音楽の趣味とかまったくバラバラだけど、いい雰囲気を出してるなっていう奴を集めた感じで」(成山)
「共通する部分はほとんどない。みんなそれぞれ譲れないものがあるんでしょうね」(田中)

レディオヘッドからポリスまでをカヴァーしつつ、オリジナル曲を増やしていった彼ら。ライヴを定期的に行いながら、2001年、札幌のアマチュア・バンド をコンパイルした『銀河』に参加。翌2002年、アルバムの制作途中にドラマーが脱退し、現メンバーの津波秀樹が加入。それを機にバンド名を “Sleepy.ab (スリーピー)” と改名し、サウンドのクオリティも急激に上げていった。そして──この12月に初のアルバム『face the music』を発表。

気持ちをかき乱すようなノイズとクリアなギター・サウンドが交錯するイントロに導かれると、美しくストリングスが浮遊する安息の地のような「scene」 が開ける。しかしその奥底には低くどっしりとしたベースが蠢き、静かなる激しさをもったドラムが遠雷のように鳴り響き、そしてエフェクティヴなギター・サ ウンドが鳥のように宙を舞う──恍惚と覚醒/幸福と恐怖/静寂と喧騒──さまざまな感覚がない混ぜになった奇妙な空間。そこに射し込む一筋の光のように、 繊細な歌声が流麗なメロディーを響きわたせる……そんな映像を聴き手に想起させるメロディアスな「scene」を筆頭に、まさに(気持ちいいだけ じゃなくて不安も錯乱もあちこちに表れる、リアルな意味での)夢見心地な音楽が、sleepy.abの『face the music』には詰まっているのだ。

驚くべきは、この豊かなサウンドスケープを魅せるsleepy.abの音楽が、基本的に4人のアンサンブルのみで構築されているということ。
「結構アナログなんですよ。ほとんど人力ですね」(成山)
「だって、MTRもロクにもってないヤツらですからね。チューナーも一個あるのを使い回してるぐらいで(笑)」(津波)

ジャズの素養をもつという田中と津波によるシュアなボトムが際立たせるのは、sleepy.abのバンド名にも含まれているアブストラクトな魅力に他ならない。その曖昧な色彩を自由に描くのが、山内の魔法のようなギター・サウンドだ。

「ギターのいわゆるベーシックな役割が成山が弾いてくれるんで、音圧を気にしたりする制約もなく、好き勝手できるんですよね。自分が思ったふうに自由に弾いてみると『ああ、いいね』って言ってくれるんで」(山内)

そして、その山内をして「ヴァイオリンのような声」と評する成山のファルセット・ヴォイスが紡ぐのは、心情を断片的に吐露したリリックだ。シンプルな言葉 で綴られる彼の詞には、コミュニケーションとディスコミュニケーションが生む葛藤がテーマとして通底しているようだ。饒舌になることで伝わりにくくなるこ とがある、だけど、何も伝えなければ気持ちは届かない……そんなもどかしさを、自分の心の内に記しておいているかのように。

「一行一行に賭けてる!みたいなところはありますね。そこからいろいろと想像してほしい」(成山)

そういえば、小さい頃に親が枕元で語ってくれたおとぎ話も、簡素な語り口なのに登場人物や風景がフワッと想像できて、楽しいのにどこか不安にさせるような ストーリーだったっけ。あとから思えば、その物語の裏には、いろんな教訓やら啓示的なメッセージが隠れていることに気付いたわけだけど……だか らって、sleepy.abの音楽がおとぎ話だ、なんて言うつもりはさらさらない。だけど、sleepy.abの音楽が夢見心地な世界へと誘ってくれるも のであるのは確かだ──夢に見る世界、それは自分自身の心の奥底にある、本当の自分の姿なのだから。

- 宮内 健 -

 




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